Note
TOKYOROOMS展:谷口勝彦さんによる、Hans Boodt Mannequinsを用いた唯一無二のクリエーション
インタビュー

4月18日から5月17日までの会期で、虎ノ門ヒルズ TOKYO NODEにて開催された「TOKYOROOMS展 〜40の部屋、40通りの生き方〜 by SOCIAL INTERIOR」。地上45階の会場内に設けられた、アーティストやデザイナー、エンターテイナーらが手掛ける40の部屋を巡る展覧会において、ゾーンの顔となる一室を任されたのが、元バーニーズ ジャパンのクリエイティブディレクター、谷口勝彦さん。「Atelier & Lab」と題された部屋には、Hans Boodt Mannequinsのプロダクトも使われています。今回の展示に込めた思いやコンセプトを現地で谷口さんに聞きました。

――オフィスづくりのサブスクサービスで知られるソーシャルインテリアが主催した同展の中で、今回のお部屋を発想したきっかけを教えてください。
依頼を受けて、まず思いを巡らせたのは、今の自分の原点となった、バーニーズ・ニューヨークでの経験でした。バーニーズで過ごした33年間を、この6畳の空間に凝縮しようというアイデアからつくり上げたのがこのインテリアです。私のウインドウドレッサーの師であるバーニーズのサイモン・ドゥーナン、彼のパートナーである陶芸家のジョナサン・アドラー、そして、ミューラルアーティストのジョン=ポール・フィリピらへの思いを込めて表現しようと試みました。


――谷口さんがバーニーズに入社された90年代初頭のニューヨークは、どんな雰囲気だったのでしょうか。
当時、バーニーズはチェルシーに店舗がありました。ゲイカルチャーの中心でもあったチェルシーには、文化人やアーティストらが数多く住んでいて、街で起こるすべてのことがカルチャーショックでしたね。店舗近くにはアンダーグラウンドのギャラリーもあれば、マネキン工場やファブリックのメーカー、縫製工場が立ち並ぶエリアで、チェルシーに住んでいる人はチェルシーで買い物をするし、ダウンタウンの人はダウンタウン内で買い物をするように、暮らしている街ごとに異なるカルチャーがあったように思います。当時のバーニーズには、ディスプレイだけで50人くらいのスタッフがおり、そんな中でクリエイティブを統括するサイモンのもとで、バーニーズが何たるかを叩き込まれました。
――サイモンさんはどんな方ですか。
彼は、80年代にバーニーズに参画し、3代目の社長、ジーン・プレスマンとともにバーニーズのスペシャリティストアとしての地位を確立するのに大きく貢献した人物です。本人は自分は会社員だと言っていましたが、ニューヨークの人たちからはアーティストのように認識されていたと思います。大切なのは“偉大な商品だ”、といつも言っていましたね。サイモンとは、僕自身が影響を受けたカルトムービーや建築家などの共通項がたくさんあったことも印象深いのですが、彼の発想には常に驚きがありましたし、どんな表現をしていくかという考え方の糸口をものすごくたくさん持っている人ですね。今流行りのミニマルなデザインとはまったく逆で、規則性がなく雑然としているけれど、そんな中に一つのスタイルが見えてくる、というのがサイモン流なのかなと思っています。また、日本では建築家は建築だけ、インテリアデザイナーは内装だけ、のように分業されていますが、サイモンやピーター・マリノとの仕事で学んだのは、ジャンルを超えてすべてを細かく見ていく必要があるといった考え方でしたね。

――なるほど。今回の展示で大きな存在感を放つマネキンについても教えてください。
かつて、アンディ・ウォーホルが創刊したカルチャー誌「INTERVIEW」の中で、サイモンがマルセル・デュシャンを解釈したオブジェをつくる企画が1993年にありました。その時に、ボディはメンズ、足の半分はウィメンズというようにバラバラのマネキンを組み合わせた上に、デュシャンの有名なレディメイドの一つ「ボトルホルダー」を乗せた作品をサイモンが発表しており、とても印象深いものでした。そこで、かつてバーニーズ時代にマネキンで協力してもらったことのあった彩ユニオンのかたに相談し、この展示にぴったりのパーツを提供していただき、当時のサイモンの作品を再現したのがこのマネキンなのです。ボディ同士は金属製のフラットバーで固定し、脚の一部には、サイモンによるCampとは、という定義を描いています。

――レディメイドの解釈だったのですね。棚に並んでいるのはどのようなものですか。
バーニーズというのはアッパーな百貨店とは違い、気取らず、人間らしい会社でした。そして、世界的デザイナーらとの長年の信頼関係があり、ニューヨークやパリでのパーティーなど、ファッション界のスターたちと本当にとんでもない貴重な経験をさせてもらいました。そうした、これまでの年月をばらまいたようなものですね。イラストレーターのソリマチアキラさんの作品、サイモンから送られてきたオーナメント用の白いハイヒール、ドール作家のアンドリュー・ヤンによる僕をモデルにしたドールなどを並べています。


――壁のアートワークは何をイメージしたのでしょうか。
アトリエの床って、絵の具が飛び散って、それが堆積してポロックのドロッピングアートみたいになるでしょう。そんなイメージで、生キャンバスにドロッピングアートを施しました。リアリティが欲しかったので、現地で床にもペイントを垂らして仕上げています。ここまで現場で手を動かしたクリエイターはあまりいないと思うのですが、今回のデザインは人に任せられるようなシロモノではなかったので、自分でテストを重ねながら完成させました。また、床のラグは、バーニーズ・ニューヨーク福岡店を開業した時に絞り染めでオリジナル製作したものを、今回の会場サイズに合わせて、当時と同じレシピ、同じ川島織物の職人の方たちの手で新たにつくってもらったものなんです。

――チェアも素敵ですね。
これは、デンマークの家具メーカー、マスプロダクションによる「4PM」のセルフビルド版、つまり、図面とつくり方を公開しているモデルなのです。その図面をもとにラーチ合板で製作したものを置きました。つくり方のピクトグラムが素敵だったので、アウトライン化して座面などに貼り付けています。

――プロダクトの選び方やピクトを足していくところに、谷口さんの美意識やユーモアが表れているように感じます。最後に、今回の展示を来場者にはどのように楽しんでほしいですか。
会期中にお客さんを見ていたら、若い方たちが、この色みがいいとか、これかわいい、と話しながら入ってきてくれました。一つひとつの展示物にはストーリーがありますが、それをきちんと伝えたいというよりは、訪れた人それぞれが自由に面白がってくれたらいいんです。それぞれは雑然としていながらも、ある一つのムードのようなものを届けられたらいいなと思っています。


PROFILE
谷口勝彦(たにぐち・かつひこ)
武蔵野美術大学卒。バーニーズジャパンで店舗のVMD・空間デザイン・広告ディレクションを統括。店舗建築や著名人私邸、ホテル内装なども手掛ける。同社取締役クリエイティブディレクターを歴任。講演・イベント実績多数。現taniguchi LLC.代表
撮影:秋葉雅士